通訳案内士法改正について思うこと

仕事論

先月、通訳案内士法の改正が、参議院を通過し、成立しました。
立場上、「どう思う?」と聞かれることもありますが、相手の人はどう思っているのかなぁと思いながら、その人の好みの回答を探す自分がいたりします。

メリット・デメリットもあるし、人によって論点も違うし、理想と現実もあるし、感情的な部分もあるし・・・。
でも何度も聞かれて、考える中で、今の自分が思っていることを整理したいと思います。

報酬を得て外国人を案内するには必要だった「通訳案内士」資格

そもそも、「通訳案内士って何?」っていう人が多いと思います。
あまり知られてはいないのですが、報酬を得て、外国人を案内する際には、資格が必要でした。
その為の資格が、「通訳案内士」であり、言語を使う唯一の国家資格とされていました。

(業務)
第二条  通訳案内士は、報酬を得て、通訳案内(外国人に付き添い、外国語を用いて、旅行に関する案内をすることをいう。以下同じ。)を行うことを業とする。
(通訳案内士でない者の業務の制限)
第三十六条  通訳案内士でない者は、報酬を得て、通訳案内を業として行つてはならない。
[引用:通訳案内士法]

グレーなことに、単なる「通訳」をするだけなら、資格は必要ありません。
「報酬を得て、外国人に付き添い、外国語を用いて、旅行に関する案内をする」ことが対象となっています。
なので、逆に、外国人が通訳をせずに、自分の言語で日本を案内したとしても対象となります。

この法律は、過去に1回某大手旅行会社が注意を受けた程度で、
実際に立件されたケースがなく、過去から法律の改正については議論されていたようですが、
自分たちも、ツアーを企画するにあたっては、通訳案内士の方にガイドをお願いしてきていました。

ちなみに、通訳案内士の資格を取るためには、幅広い知識が求められます。
1次試験:語学、日本史、日本地理、一般常識
2次試験:面談

そして、問題も近年易しくなっているようですが、なかなかにマニアックでした。

現実との乖離が更に広がり始めていた通訳案内士法

通訳案内士法は、
「通訳案内士の制度を定め、その業務の適正な実施を確保することにより、
外国人観光旅客に対する接遇の向上を図り、もつて国際観光の振興に寄与することを目的」としていました。

目的自体はとても大事なことだし、必要なことだと思います。
他国でも、ガイドの資格を整備している国はあります。

ただ、近年改正が議論されていたのは、現実と乖離が出てきていたことがあります。

そもそもあった通訳案内に求められるスキルと試験の内容のGAP

試験内容は、上記のとおり、語学・日本史・日本地理・一般常識と面談でした。
ただ、ガイドには知識があればいいかというとそういうわけでもありません。

試験は必要ではあるけど、必要十分ではない。接遇の向上が大事だけどその要素が資格には薄い。
一方で、知識がマニアックすぎて、そこまで必要ないでしょ、ってレベルまで求められていました。

結果的に、地域限定の通訳案内士制度ができたりと対応していましたが、
「業務の適正な実施を確保」「接遇の向上」にどこまで寄与できていたかは疑問が残るところです。

中国語をはじめガイドが間に合わず違法状態が常態化してきたこの数年

そんな中、国は、Visit Japanキャンペーンを進め、Visa要件の緩和等を積極的に進めました。
結果、数年前の3倍の外国人が日本を訪れるようになりました。

でも、ガイドは3倍にはなっていません。
ましてや、中国から団体で来る旅行者は、中国人ガイドを連れてくるのですが、
彼らは当然のようにそんな資格なんて持っていません。

日本を楽しんでもらいたい、ガイドがいたほうが日本をより深く知れる、という一方で、
ガイドがいない、ガイドを雇うと高い、という状況が常態化してきました。

法律に従って取り締まるのも観光庁ですが、Visit Japanを推し進めるのも観光庁です。
水をさすようなこともできないまま、時が過ぎてきたわけです。

カバーできている10言語以外でのガイドは違法という制度

そしてそもそも、語学に関しても、対象は訪日旅行者にメジャーな10言語でした。

英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語(繁体字)、中国語(簡体字)、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、韓国語、タイ語

先日、インドネシア人の方から問い合わせがあり、観光庁に問合せをしたのですが、
現状、上記10言語以外のガイドを報酬をもらって行うと違法になるとのことでした。

ま、まじ!?

法律を文面で読むと仰る通りだし、
観光庁的にはそう答えざるを得ないのもわかりますが、現在の法律の限界を感じました。

「現在、国会で審議しているので、まもなく大丈夫になるか、と。」が観光庁の返答。

ここ数年、事業者側では、色々な動きが見られました。
「法律を遵守して、通訳案内士のみを活用する」
「通訳する人と日本語ガイドの2人つけることで『通訳案内士』の枠組み外で対応する」などなど。

色々な乖離に関して、やっと法律が追いついてきました。
追いついてきたというよりは、一気に緩和させたという印象です。

今回の改正に対して、当然のように通訳案内士の団体・人は反対していました。

その立場の意見もとてもよくわかります。

でも、事業者側もガイド側も、自己の利益を追求しがちですが、
もっと、ゲストの利益を考えて今後の制度を形作っていかなくてはと思うのです。

大事なのはLicensedであることよりProfessionalであること

ゲストからすれば、
資格を持ってようが持ってなかろうが、レベルの高い人に案内してもらいたいはずです。

その一つの基準が資格だったのですが、上述の通り、現実と離れてしまっていた。
それと同時に、一気に、規制が緩和されすぎてしまった。

でも、これは一つのチャンスかな、とも思うのです。

 

競争が起こり、「ゲストから選ばれるガイド」を改めて考えるいい機会だと思います。

これまでも、中には、「資格があるから、仕事ありますよね」的スタンスの人がいたのも事実です。
こんな人がガイドだったら、ゲストかわいそうだな、と思う人も。。。

自分たちが普段仕事をお願いしている人たちも、いろいろ思うところはあると思うのですが、
皆のガイドに向かう姿勢を見ていると、全く問題ない、むしろ、チャンスなのではと感じます。

だって、資格があってもなくても、選ばれる、人たちだから。

確かに、空港に迎えに行く、等、誰でもできる仕事は、競争が激化すると思います。
でも、ガイドって、資格なくて誰でもやっていいよって言ってそう簡単にできるものでもありません。

医者だって、弁護士だって、資格なくてもいいよって言われても簡単にできない。
通訳案内士だって、同じくらいの意識を持って、選ばれていく必要もある。

平均単価は下がるかもしれないけど、裾野が広がれば、仕事の機会も増えます。
そして、本当にいい人には、それに見合った報酬が支払われる世界になっていきます。

資格云々ではなく、
自分のガイドの価値に誇りを持って、磨いていく人には、未来は明るいと思います。
LicensedであることよりProfessionalであること。
そうあってほしいな、と思います。

 

一方、事業者側からすると、
採用の幅は広がる一方で、採用にかかるコストや品質の担保は、新たな課題となります。

ただ、品質にバラツキが生じるからこそ、
品質担保が、ゲストから選ばれる大きな利点になります。

だって、ゲストも誰を選んだらいいのか、
資格制度がなくなるとよくわかんなくなっちゃいます。

旅行者は、数十万円、10数時間をかけて日本に来るわけで、
その貴重な日本滞在時間を満喫してもらうためには、
安定して満足できるガイドを繋いでいくことは大きな価値だと思っています。

 

規制緩和は必要だったけど、一気に進みすぎちゃったなーっていう印象はありますが、
もう決まってしまった話ですし、その枠組みの中で、ゲストにベストを尽くしていきたい。

それが今の思いですし、
それには、通訳案内士の方々の協力が不可欠だと思っていて、
一緒に切磋琢磨して、日本を楽しんでもらえたらな、と思ってます。

コメント