今の福島沿岸部に、ツーリズムができること

奮闘記

主に外国人向けに福島沿岸部のツアーを始めて、約1年が経過しました。
まだ多くのゲストを連れていくことはできてないけど、少しずつ形になってきています。

一方で、「福島県の沿岸部を訪れるツアー」というと、様々なご意見も頂きます。
それに対して、悲しい気持ちになりながらも、
自分が自分たちの想いを十分に伝えてこなかったなという反省もあり、一度文章にしてみることにしました。

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「わざわざ被ばくされに行くなんて頭がおかしい」
「見世物じゃない」
「世も末」
「お金儲けするな」
「ダークツーリズムなんてどうかしてる」

テーマがテーマだけに、批判的な声を国内外から頂くことも多々あります。
批判的な意見に同意する部分もありますが、大事なことは、
思考停止に陥らず、この教訓を後世に引き継いでいくことだと思うんです。

「被ばくされに行くなんて頭おかしい」という人に限って海外出身の日本在住者でした。
被ばく線量だけで言えば、飛行機に乗っている方がよっぽど高いということを多くの人は知りません。
(自分も知りませんでした)

「見世物じゃない」と言ったのは現地の人ではありませんでした。
少なくともこれまで相談してきた現地の方々は、
来てくれて忘れないでいてくれることに価値を感じてくれる人が多くいました。

「お金儲けするな」っていう人もいました。
お金を稼いで雇用を現地に産まない限り、復興はできません。

「ダークツーリズムなんてどうかしてる」っていう人もいます。
それなら、広島や沖縄に修学旅行で大挙する義務教育から疑問の目を向けるべきです。

「あそこの人に話を聞きに行くなんてどうかしてる!あの人の考え知っているのか!」
そんな意見もありましたが、よほどゲストの方が落ち着いて情報の処理をしていました。
ツアーの問題というより、ゲストの知識量や受け止め方を踏まえた伝え方の問題だと思ってます。

「『Disaster area tour』という名前が良くない!」
これは一番その通りでもあるなと思っている意見でもあります。
日本語訳は被災地訪問ツアーなのですが、「Disaster」という言葉は強い印象を持ちます。
一方で、多くの人がGoogleで検索時に使っている単語でもあり、
多くの人に今の福島の被災地を知ってほしいという想いであえて付けました。

 

変な正義感で、条件反射的に批判するのではなく、
この事象とはみんながみんな向き合っていく必要がある課題です。

行きたくない人を無理に行かせようなんて思わない。
でも行って真実を知りたい人の手助けはしたい。

「客観的に」というのは存在しないし、
「何が中立か」はわからないけど、
スタンスは取らずバランスを意識しながら伝えていきたい。

そう思ってます。
それが、福島の未来につながると思うので。


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元々は、ある学生からの一つの相談が発端でした。
「観光で福島の復興に貢献したい」

はじめ、彼のアイディアは、よく耳にしていたもので、
「外国人にも人気のある会津エリアで何かできないか」というものでした。

自分は、なんか違和感を覚えました。

その当時、東北の観光推進のお手伝いをさせていただく中で、
確かに外国人にFUKUSHIMAを敬遠する声を耳にすることはありました。

ただ、一方で、福島県が取り組んでいる方向性は、
FUKUSHIMAという名前は良くないから、
「AIZUで売っていこう」というエリア軸を押し出したものや
「SAMURAIツーリズムだ」というテーマ軸を押し出したものでした。

ましてや「福島県の県名を変えればいい」みたいな議論もあり、
それは本当に福島県のため、福島県民のためになるのか、
福島の風評被害払しょくにつながるのだろうか、と。

それだったら、もっと、
「第一原子力発電所のあるFUKUSHIMA周辺を見てもらい、
『福島県・福島市とFUKUSHIMAが違うこと』『原発から思いのほか近くても普通なこと』を
感じてもらった方が本当の意味の風評被害の払しょくになるんじゃないか」
そんなことを考えたわけです。

SAMURAIという仮面をかぶった福島県はそれはそれでいいけど、
ちゃんと仮面の下から地道にでもやっていくべきだと思ったのです。

それと同時に、「ツアーが催行されている」こと自体にも意味があると思いました。
危険であれば、ツアーは催行されません。
逆に、ツアーがあるということは、ある程度大丈夫だという発信にもなります。

怖いと思うから、人は足を運ばないし、
行っている人がいないから、怖くなって足を運ばない。

ならツアーという形で、人が行き始めれば、大丈夫だという認識も広がるのではないか。

結果、彼の動きを応援する形で動き始めました。

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自分自身、なぜ「東北」や「福島」に関心を持っているかというと、家族の存在もあります。

自分は、愛媛県で生まれ、3歳の時の横浜に引っ越し、
以来、横浜・東京で育ってきて、そこ以外で暮らしたことはありません。

ただ、宮城県出身の父親の影響で、毎年車で福島県を通って宮城に帰っていました。
父親が6人兄弟だったこともあり、
従兄弟が沢山いる田舎への帰省は小さいながらに(お小遣い貰えるし)楽しみなものでした。

2011年3月11日。

東日本大震災が発生しました。
一時期は連絡の取れない伯父もいました。(幸い無事でした)

宮城県南に住んでいた叔父は原子力発電所の事故の影響もあり、
横浜の実家に一時期避難していました。

そして、その当時の彼女の実家は福島県内でした。
親が心配だから、すぐに実家に帰りたいという彼女を、
ガソリンもままならない今行っても迷惑かけるだけだ、と引き留めました。

当時ちょうどやり取りしていたクライアントの関係で東北にもよく出張していました。

東京にいたものの、身近で衝撃的な地震でした。

やっと福島に足を運べたのはGWになってから。
彼女のお父さんに車に乗せて連れて行ってもらったいわき市の光景には言葉を失いました。

そして、津波だけでなく、原子力発電所の事故も福島を襲いました。

東北の沿岸部に対して自分ができることは何だろう、と思ってみても、
事故当時は、何かしたくてもできることは限られていました。

当時働いていたというのもありますし、
もちろんやめてボランティアに行くという道もあったのでしょうけど、
それ以上に、目の前のクライアントに最大限の価値を出すことが自分にとっては一番の貢献だと思っていました。

時が流れ、1年旅行したのち、自分で仕事を始めました。

当時の彼女と結婚し、旅に出たわけですが、
旅行中も海外の人と話すと「あーあのFUKUSHIMAね」という反応を目にしました。
良くも悪くも知名度の高くなってしまった福島。
今も、宮城・岩手で復興が進む中、福島は依然原発の影響が色濃く残っています。

東北の観光にも携わらせていただく中でも、
外国人が抱くFUKUSHIMAのイメージと現実のギャップを感じ、
そこに何かできないかという想いを持っていました。

 

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自分たちに何ができるか。
それは、ツーリズムの活用でした。

「ツアー」「観光」という言葉の印象は明るすぎて時に批判を呼び、
「ダークツーリズム」という言葉は暗すぎて、これまた批判を呼びます。

でも、ツーリズム自体は、
人と人、空間と空間をつないで、
関係する人たちを幸せにするものだと思っています。

そこに愛があるか。

これは、福島に限らず、
どこで自分たちが事業する際も心がけていることですし大切なことです。

ツアーだなんだと言って、
見る側の欲望だけ満たして、見られている側は不満が残る、
というのでは、嬉しくもないですし、長続きもしません。

たとえお金になったとしても、そんなことはやりたくない。

福島でツアーをやるからには、訪れる人が、
教訓から学び・考え、
福島を好きになり、
また来る、あるいは、人に勧めるようになるようにしていきたい。

また、その人たちがお金を現地に落とすことにより、
現地に消費・雇用が生まれ、地元の活性化にもつながっていく。

単にコミュニケーション自体も双方にとって楽しい。

常に福島に光があたって誰かが観ている。

 

それは、大型バスで、
どーんってきて、どーんって去っていくのとは違うツーリズムです。

目の届く範囲で、考え、学び、触れ合いを楽しみながら、福島を感じていくツアー。

知識的にも、場を創り進めていく上でも、高度なガイド力が求められるとは思いますが、
そういうツアーを創り、続けていくことで、
FUKUSHIMAの今を伝えるとともに、福島ファンを一人また一人増やせるのでは、と思っています。

インフラがないから人が戻ってこず、
人が戻ってこないからインフラが整わない。

そうした、復興でよく見かける鶏と卵の問題にも、
ツーリズムは外部からの交流人口という形で貢献できるのではと考えています。

 

「外国人だけじゃなくて、日本人向けもやらないの?」という声も頂きます。

思った以上に多くの日本人も現地の状況を知らないので、そうした機会も作っていければと思ってます。

ただ、日本人は自分でレンタカーでもしていけてしまいますし、
とれる情報も多い(&すでに結構多くの知識を持っている)ので、
どうツアーの付加価値をつけていくかは今後の検討ポイントかなと思っているところです。

 

外国人向けに形作って、日本人向けにアレンジする。
そういうステップも一つなのかなと思ってます。

 

自分は、ツーリズムが持っている可能性を信じています。
一歩一歩、現地の方とも丁寧にコミュニケーションとりながら、少しずつ進めていければと思ってます。

 

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こちらはツアーの様子を参加者の声とともに動画にしたものです。
お時間あればご覧ください。

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