第6話 赤字でもツアーをやるか?収支管理と投資の考え方

ツアー誕生ストーリー

ツアーを売り始めて、すぐにゲストから申込があるかというとそんなことはない。

ツアーの価格の設定にもよるが、「1人あたり」で金額を設定すると、当然損益分岐点が生じる。そこで旅行会社としては「最少催行人数」というものを設定するのだが、立ち上げるために僕たちはどうしたかを今日はお伝えしたい。

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ツアー誕生ストーリー
1万人を超えるゲストを迎えたツアーの誕生から現在までの7年の成長記録です。 ツアーの企画・運営に興味がある方は是非ご覧ください。ツアー造成・ガイド育成・販路拡大・OTA活用等のリアルが見えてきます。

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僕たちは、FIT(個人外国人旅行者)を対象にツアーを設計しており、1グループの定員を5-6名としていた。これは、当時築地場内市場が大人数での入場を禁止していたことも背景としてあるが、1名のガイドがある程度密な個人的なコミュニケーションをとることが出来るのも、5-6名だと考えていた。

こうした中で、価格設定については以前書いたが、2-3名ゲストがいれば、利益が生じるような価格設定をした。

とはいえだ。旅行者は必ずしも、カップルや家族や友達同士ではなく、2名以上になるとは限らない。

1名申し込みがあったのち、もう1名申し込みがあるといいなぁと願望を抱きつつ、ツアー日を迎えることも少なくなかった。

「最少催行人数に達しなかったので、ツアーは催行しない」

これは、旅行会社の判断として、至極当然のことだし、日本全国でそういう判断をしているケースも多いのではないかと思う。僕たちも、原価の高い、車を手配するようなツアーをさすがに1人で催行することは出来なかったが、初期の頃、築地や砂町銀座のフードツアーでは、1人しかおらず、赤字であっても催行した。

これが、僕たちが早期にツアーを立ち上げられた一つの要因だと感じている。

ゲスト目線、ガイド目線、地域目線、旅行会社目線、4つの視点で見ていきたい。

ゲスト目線:催行しない落胆とプライベートのお得感

ゲストの立場からすると、「最少催行人数に達しなかったから催行しない」というのは、受け入れざるを得ない結果だ。特にそれでクレームを言う人も多くはいない。

でも、クレームは言わないにしても、ゲストは、旅行の中の大切な旅程に組み込んでくれていたのだ。楽しみにしてくれていたのだ。そして、ゲストとしては友達を誘う以外には、集客に貢献できることはほとんどない。ツアー会社に任せるしかないのだ。不催行になれば、少なからず、落胆はあるし、もうそのツアー会社のことを思い出すこともないだろう。

1人でもツアーを催行すると、「えっ、他のゲストいないの?プライベートでラッキーだわ」と9割の人が感じてくれる。飲み歩きのツアーでは「他のゲストとの交流を楽しみにしてたのに」という人もいたが、多くは少人数で催行してくれたことにありがとうの気持ちを持ってくれていた。

結果、ゲスト満足度を手に入れることが出来た。

ガイド目線:経験の場とツアー会社への信頼感

ガイドの立場からしても、「最少催行人数に達しなかったから催行しない」というのは、受け入れざるを得ない。契約に基づいて、キャンセル料が支払われることもあるだろうが、多くの場合、キャンセル料が発生する前に催行・不催行の判断をするから、単に仕事がなくなる。

やむを得ない事ではあるけど、そういうことが続くとどうなるだろう。ガイドからするとそのツアー会社に対して、予定を預けたくなくなってくる。「どうせまたキャンセルになるんでしょ」そうした思いが頭をかすめることは、信頼感を損なう事にもなる。

1人でツアーを催行することは、人数が少なくて楽なようにも感じるが、そのゲストとのコミュニケーションを一手に引き受けなくてはいけない分、逆に難易度が高い側面もあると個人的には感じている。
ガイドは場数を踏むこともとても大事であるし、いい機会になっていたと感じている。

結果、ガイドからの信頼と、ガイドのレベルアップを実現することが出来た。

地域目線:いつもお客様を連れてきてくれるという認知

地域の立場からすると、別に最少催行人数なんて知ったこっちゃない。連れてきてくれるお客様は多いに越したことがないのかもしれないけど、単に多いだけじゃ邪魔だし、人数より、どんなゲストか、だ。

そうした際に、「ガイドの顔を知っていること」は、双方にとって安心感がある。信頼感が生まれる。(損ねる可能性も無きにしも非ずだが)

結果、ツアーの催行回数を増やすことは、「あそこはいつもお客様を連れてきてくれる」と言った認知や関係構築に繋がったと感じている。

旅行会社目線:プロモーションやオペレーションの簡素化・ES向上

そして、最後に旅行会社の立場で考えてみる。

ゲスト目線・ガイド目線・地域目線を考えてみただけでも、赤字と引き換えに、満足度や信頼・ガイドの成長と言ったお金では買えない価値を得ることが出来ることが分かる。

僕たちは、赤字であってもそこでゲストから貰える(かもしれない)口コミが、次のゲストを呼び込むことになり、広告への投資だと思って、1人であってもツアーを催行した。

加えて、旅行会社としては、オペレーションの簡素化や従業員満足度(ES)向上にもつながる。

「最少催行人数に2週間前に達しなかったら、キャンセルで」と決めたとすると、毎日、2週間後のツアーの人数を確認しないといけない。「2週間前には達してたのに、その後キャンセルが入り、人数が欠けた場合はどうするのか」と言ったイレギュラーケースも想定して、ルールをつくる必要が出てきて、複雑化する。複雑にすると、みんなの共通認識として理解してもらいづらくなるし、確認の手間も増える。

また、「ツアーは不催行になりました」と伝えるのは、事務的ではあるものの、ゲストにもガイドにも申し訳なさを感じるものだ。プライベートツアーでゲストからキャンセルになった時等はしょうがないものの、出来る限りストレスになるものは取り除いた方がよい。ありがとう、って言われるやりがいはとても大事だ。


このように考えたときに、数千円程度の赤字なのであれば、立ち止まらずにガンガンツアーを回していくことのメリットしか感じなかった。数万円であっても、割り切ってもいいのかもしれない。

1つのツアー、1回の催行で収支を管理していくのは正直あまり意味がない。
1回の催行で赤字にならないように気を遣っているのに、そのくせチラシを大量に印刷して、配布にもコストをかけていたり、綺麗なプロモーション動画の作成やFAMツアーには労力をさいていたら本末転倒だ。

ツアー全体を見たときに、広告費等も合わせて最適化を目指していく必要がある。

ツアー初月から黒字になんてならない。年間通じて、立ち上げていくために、最初の赤字は投資だと割り切ることが出来るか、が、すっと立ち上がるか、ずっと全然立ち上がらないかの分岐点の一つだと思っている。


新規事業としてツアーをはじめる時に、社内でその赤字予算の確保が出来ず、立ち上がってないものもそこそこありそうだし、行政の補助金でそこを埋めるというのも一つの立ち上げ方かも、とふと感じた。

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