第19話 場内移転、ハイライト消滅のピンチをどう乗り越えたか

ツアー誕生ストーリー

毎週の更新を途絶えさせてしまって早1カ月半が経つのだけど、その間に「読んで勉強になりました」とたまたま何度かお声がけいただいたので、久々に書いてみようと思う。

…とは言いながら、最初に考えた目次に沿うと、多くの人が興味ある話ではなさそうだから、別の話題を挟もうかとも思ったのだけど、特に名案が浮かばなかったので、そのままの流れで書いて行こうと思う。

「読んで勉強になった」と声かけてくれるガイドの方々は、単にガイドとしてではなく一歩を踏み出そうとしているわけで、その流れはとてもいい流れだなと思う。

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これまで一番のピンチ、価値を出しやすかった築地場内市場の移転

若干時系列は前後するが、2015年にツアーを始めて以降、様々なことが起こったが、外部環境の変化で大きかったのは築地場内市場の移転だ。

もちろん2014年時点で移転が決定していたわけで、ツアーを始めた時点でいつか来ることは分かっていた。
ただ、2016年に小池都知事が就任して、移転の延期を決定したことにより、延命されたし、その間にツアーは伸びていったし、このまま移転自体白紙になるのでは、、、という甘い淡い期待も抱いていた。

築地は、今でも新人ガイドの人に「築地はガイドの価値が出しやすい」という話をしているが、場内市場があったときは、本当に価値の出しやすい=ガイドがいて良かったと思ってもらいやすい場所だった。だからこそ多くの人から高い評価を頂けていた面もあったし、新人もやりやすかっただろう。

「価値が出しやすい」ってどういうことかを簡単に説明するためには、逆に「価値が出ない」って何かを考えてみるといい。僕たちが悪い評価を貰う時によくあるコメントは「On our own(自分で行けた)」だ。自分で行けるなら、わざわざプラスαのお金払って、ツアーに参加したり、ガイドに話を聞く必要がない。なので、ツアーをやる上では、自分で行けないな、と感じてもらう魅力を付加する必要がある。

その点、築地は、単に活気があるだけじゃなく、ぐちゃぐちゃしてるし、人も店も多いし、見てるだけではわからない奥深さがある。場内があったころは、更に輪をかけて、数百店舗が所狭しと並んでいるし、縦横無尽にターレは走り回っているし、もはや入っていい場所なのかすらわからないレベルだった。

そんな中、僕たちは、何時に入ると、ここでは生マグロをみて、こちらで冷凍マグロ、あそこではふぐを見ることが出来て、こっちではどじょうとうなぎ、次のお店ではトビウオを持たせてもらえる・・・と言った仲卸さんとの関係やルートも出来ていて、そこで見られなくてもオプションBもある、、、というように盤石な状態だった。

場内市場で、市場の活気を浴びに浴びた後、場外市場で、美味しい食に舌鼓を打つ。

全体として、完成された作品となっていた。

しかし、最終的に移転は決定。
2018年10月に築地場内市場は幕を下ろすことになった。

築地場内市場は、ツアーの中でもハイライトだった。そのハイライトが姿を消す。
さぁ、どうやってツアーを継続していこう。

僕たちが向き合わなくてはならない大きな課題だった。

移転時に検討した様々なオプション。まずは選択肢を議論の俎上に。

2016年に移転する予定だった時からいくつかのパターンを検討はしていた。

①豊洲市場でツアーを何とか催行する
②豊洲市場+築地場外市場を巡るツアーとする
③築地場外市場で何とか催行する

①②に関しては、ぶっちゃけオープンしてみないとわからない。
準備をしようにも準備のしようがない。

でも、指を抱えて待っているわけにもいかないので、オープン前の市場の見学会にも足を運んだりした。

マグロのセリに関してもだいぶ状況は変わりそうだということはこの時点で分かった。

また、②で豊洲と築地を行き来するとして、どう移動するのが良いかも色々考えた。
「電車+バス」「タクシー」「自転車」・・・どれも、まぁなんだか、移動のための移動になりそうだ。なんかそこに価値を足すことが出来ないか。

たまたま知り合いがTokyo Water Taxiなる新しい交通手段をスタートしたこともあり、どこら辺からどこら辺に移動が出来そうか、試しに乗ってみたりもした。

乗り場が若干不便な場所だけど、悪くはない。悪くはないというか楽しい。
でも結構コストが嵩むのが、どう評価されるか。

そうこうしているうちに、築地場内市場は幕を下ろすことになる。
もう蓋を開けてみるまで分からない。なるようになるさ。

蓋を開けてみるまで分からないので、豊洲市場オープン後は、とりあえず「③築地場外市場案」だけをカレンダーオープンにして販売したのと、移転後1週間は、とりあえず予約を受け付けないことにした。(…と記憶している)

豊洲市場オープン後3日連続で足を運んで分かったこと

豊洲市場がオープンした。

眠い目をこすりながら、豊洲市場に足を運ぶと、あたかもずっと前からそこで営業していたかのように多くのトラックが流れるように豊洲市場に吸い込まれていった。

個人的に、新しい建物で新しい命が吹き込まれる瞬間を見るのもワクワクした。

とにかく広い!ここが日本の食を支えているのか、と感じる高揚感もあった。

「豊洲市場は綺麗で味気が無い」

そんな前評判もあったが、全然そんなことはなく、築地と似た空気感があった。
1日にして、そこまで綺麗じゃなくなっていた。

「使ってるやつ変わんねえんだから当たり前だろ」

顔見知りの仲卸さんが言っていて、そりゃそうか、とも思った。

仲卸のスペースを歩いている限りは、築地と同じことが出来そうだ、とも思った。

だけど、観光客向けにつくられた通路を歩いて愕然とした。

まったく、市場の魅力が伝わらない・・・だって、市場の通路しか見えないんだもん。

都知事は「観光客用の通路も整備した」と胸を張っていた気もするけど、果たして都知事はこの通路だけし歩かない人の目線を知っているのだろうか。

自分がふらりと歩く分には仲卸のフロアも歩けるが、観光客を連れてだとそうもいかない。
昔のように場内市場の代替として豊洲を訪問するのは難しいと感じた。

地元の人とガイドの力に支えられた場外市場での体験

1週間は、ツアーの受付を止めていたが、1週間してツアーを再開した。

大事なことは2つ。

1つは期待値を調整すること。
もう一つはちゃんと満足してもらう事。

場外市場の人たちも必死にアピールしていたが、築地場内市場が移転する=築地がなくなると思っている人は多かった。都内のホテルで働いている人すら間違っていた説明をしていたので、外国人旅行者が勘違いするのはやむを得なかった。そもそもツアーを売っていること自体、間違って売ってるんじゃないか的な問い合わせも来た。場外市場を訪れる人も減っていたと思う。そして、その一方で、それとは逆に場内が移転したことを知らずに来てしまう人も多かった。

「場内は移転した」「十分に楽しめる場外市場は残っている」「その場外市場を巡るツアーだ」この3点を何とか届くようにコミュニケーションをした。ツアー販売時、予約完了時、リマインダー時に伝えた。それでも、読まずに来て、がっかりするケースもあったりして、コミュニケーションの難しさを感じた。

もう一つは、どう「On our own」ではない体験にするかという事だった。メロンのオークション見学も、生マグロがごろごろ転がっているシーンも、ターレをよけながら歩くアジア丸出しな空気もそこにはない。それでも場外市場だけも楽しい魅力的な場所だし、大好きな場所だ。「ツアーならではさ」は提供できるはずだ、そう考えた。場外市場にあるお店に話をして、何か特別なことが出来ないか交渉をした。結果、いくつかのツアーならではの時間を演出することが出来るようになった。

それと同時に、既に4年程が経ち、ガイドの方々の経験値がたまりレベルが上がっていたことも大きかった。トークで価値を出せるガイドの方々がいて、移行期で期待値コントロールが難しい中でも、何とかいい評価をそこから積み上げていくことが出来た。
(「え、場内移転したの?」ってがっかりしたところから、ちゃんと「楽しかったぜ」でツアーを終わらせることが出来たのは、ひとえにガイドの力によるところも大きかった)

結果的には、豊洲+築地のツアー等もやっているのだけど、築地場外市場を磨き上げることで、移転の変化の局面を乗り越えた。

「ツアーならではの価値」を意識してくことが大事だと今でも思っている。

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今でこそ、休市日でも大混雑なくらい場外市場は観光の目的地となっているし、十分にツアーを組める場所でもあるとわかるのだけど、場内市場がなくなるときは、どうなるんだろうという不安も抱えていた。

「移転してもこっちに来てよ」

今でもお世話になってる店の人たちにそう声かけられてたのも今では懐かしい思い出だけど、そうした時期を経たからこそ、さらに地域との関係性も深まっているのかもなぁと改めて感慨深く思う。

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