第3話 95%5つ星の原点。他業界を参考にしたツアー品質安定化の仕組み

ツアー誕生ストーリー

「観光コンテンツをつくろう」という動きは日本全国で取り組まれていて「ツアー造成」「ガイド育成」「プロモーション」事業は日本各地で行われています。現場感がない人も多い中、少しでも現場感が多くの人に伝わればと思い「1万人を超えるゲストを迎えたツアーの誕生から現在までの7年の成長記録」をお届けします。

第3話は「95%5つ星の原点。他業界を参考にしたツアー品質安定化の仕組み」です。世の中、商品造成においてガイドを軽視している事例も多数見かけますが、ツアー満足度は、ガイドの良し悪しに依存します。その割に、誰でもガイドできるかというとそうでもないし、一歩踏み出すハードルも高めです。今回はそこをどう仕組み化したかをお届けします。

過去の投稿はこちらから


「ねぇ、1週間後に大切なお客様が来るから、東京を1日案内してよ。3万円払うから!」

急にそう言われて、「オッケー」って返答できる人がどれくらいいるだろう。
「オッケー」って答えた人の中でどれくらいの人が、ゲストを満足させることが出来るだろう。

「別にいいよ、でもお金はいらないや」
そう答える人もいるだろう。
お金を貰って、仕事として人を案内して、その御代以上の価値を出すことは、容易ではない。

ツアーの満足度は、多くのケースはガイドに依存する。
ガイドが良ければ楽しいし、ガイドが微妙だったらつまらない。
当たり前のことなのだけど、だから属人的になってしまうし、ベテランが活躍しやすく、新人が一歩踏み出しにくい世界観が出来上がる。

「1週間じゃなくて、1カ月あれば準備もちゃんと出来るんだけど…」

こうなってしまうと、どうしても腰は重くなるし、新しい担い手は増え辛い。
準備に相当時間を割くことになれば、その分、活動する際の人件費も相応に高くなる。
しかも、結局のところ、人に依存して、経験年数が長いからいいわけでもないし、ゲストの満足度は安定化しない。

これではなかなか、企業としてサービスを展開するのが難しい。

僕たちが、多くのゲストを迎え入れることが出来、かつ、参加したゲストの方に満足してもらえたのは、ここを仕組み化できたことが大きいと思っている。

僕は起業したときに、生きていくためのお金を稼ぐために、そして、人に発信することのスキルアップのためにということで、ビジネススキル研修の講師の仕事に応募した。

4年間のコンサルティング会社での勤務経験もあり、「ロジカルシンキング」等はそれなりに鍛えられたスキルでもあった。しかし、教えた経験はない。OJTで身に付けてきたので教わったこともなければ、教え方も分からない。でも生きていくためには、仕事を得なくてはならない。ビジネススキル研修の講師の仕事は、収入0の自分たちにとってはありがたすぎる仕事だった。

幸い、兄が既に研修講師もしていたこともあり、そのネットワークで採用実技演習のコツ等も事前に指導してもらい、採用試験をクリアすることが出来た。そして、研修会社が営業し、クライアントとの期待値を揃えてくれ、テキストも全て用意してくれたことで、研修講師としての一歩を踏み出すことが出来た。ちなみに、テキストは講師が勝手に編集することは不可とされており、どの講師が講座を担当しても、同じ学びを受講生に届けることが出来るようになっていた。

もし、「1週間後に○○株式会社で中堅の社員に向けてロジカルシンキングを教えて」と仮に依頼されたとしたら、足踏みしただろう。いや、1か月後だったとしても断ったかもしれない。

さぁ、ツアーをはじめようと思った時に、これは全く同じことなんじゃないかと思った。
コンサルティング会社に入ったばかりに上司Hさんに言われたことが、頭によぎった。

「ふみとさん、アナロジーを見つけることが大事なんだよ」

当時の僕は、「あなろじー」という英単語の意味が分からず、焦って調べたこともあるし、その後大切さを知ったこともあり、とても頭に残っているフィードバックでもあった。

アナロジー(Analogy):類比・類推

研修業界は、講師任せにせず、会社がテキストを作って、学びを設計することで、講師の質に左右されない質のサービスを提供することが出来ていた。いや、もちろん差はあるんだけど、講師新人時代の僕であっても最低限の学びを届けられたという実感はある。5クラス同時に研修をしても学んでいることが全く違うなんて起こりえない。

業界は全く違うけど、ガイド業界でも同じことが出来るのではないか、と思った。ガイドする内容をガイド任せにせず、会社として台本を作って、ゲストが楽しいと思うハイライトを設計してあげれば、最低限の満足度を揃えることが出来る。それと同時に、ベテランじゃなくても、新人でも一歩を踏み出しやすい。

これにより、ベテランに頼るよりは相対的にお願いしやすいガイド料金で、ベテランに頼る以上にゲストに満足してもらえるツアーを実現できると考えた。

「ゲストから100点を貰える内容はマニュアルで整備し、ガイドのホスピタリティで120点を狙う」

そんなサービスを目指し、ツアーを作りこみ、半日のツアーで10ページ近いマニュアルを整備した。
基本があると、ガイドも余裕が出て、ゲストのちょっとした合図に気付いて対応できるようになるものだ。

また、この口コミ社会において、ゲストの期待値が揃ったことも、不満を小さくできた一つの要因だと感じている。もし属人的に寄ったサービスだったら「○○さんが△△してくれて本当に良かったぜ!」という口コミを見た他の人がツアーに参加して「△△してくれなかった」と不満を持つかもしれない。
口コミで書かれた多くのことに再現性があるというのも満足度の安定に寄与したと思う。

僕たちは「ガイド料金が安い」とガイドさんたちから言われることも多かった。
ガイドの文化を創っていく上では、改善していかないといけない課題だとは認識している。

ただ、その分準備にかかる時間を短くしてあげることは出来ていると思っているし、ゲストの満足度を高めることで結果的にガイド業自体も楽しく取り組んでもらえることが出来たのではないかと思っている。

コロナ前には、新人ガイドの登竜門的存在になってきたことも、狙った通りの結果だった。

コメント