先週、日本政府観光局(JNTO)より、訪日外客数の2023年10月の推計値が発表されました。(こちら)
「10月: 2,516,500人、2019年同月を超える」という見出しでした。
2019年10月は韓国との政治問題で韓国からの来客数が激減していたこともあり、単純比較して「コロナ前に戻ったぜ!」というのは、ちょっと違和感もありますが、2022年10月11日の水際対策緩和からちょうど一年、ある意味コロナからの回復を象徴させる発表でした。
象徴的だったため、各種メディアもインバウンド界隈の人たちも、いつも以上にこの発表・ニュースを拡散していたように感じました。
インバウンド業界で働くものとして、とても嬉しいニュースでした。
しかし、毎月のJNTOの発表の中で、一つ、ずっと気にかかっていることがあり、それは、改善どころか若干悪化しました。
こちらが発表資料の中にある「2023年訪日外客数・出国日本人数(対2019年比)」です。
「訪日旅行(インバウンド)」を推進しているJNTOが、出国日本人数も一緒に並べて公表していることは個人的にとても興味深いのですが、気にかかっているのは「出国日本人数」の推移です。
表より、グラフの方がより、視覚的にわかりやすいかと思うので、上記表のデータをグラフ化してみたのもがこちらです。
棒グラフが訪日外客数の2019年と2023年の推移。
折れ線グラフが出国日本人数の2019年と2023年の推移です。
棒グラフは、徐々に二本の差がなくなってきて、10月についに2023年が2019年を超えました。
2019年8月に訪日外客数がぐんと減ったのは先述の韓国の影響です。
それがなければ、2019年10月は300万人前後だったことも傾向からしてみて取れます。
一方で、折れ線グラフは、その乖離がなかなか縮まりません。
1月が3割程度の回復だったのに対し、10月は6割弱まで戻ってきたね、というのはその通りですが、8月以降は横ばいで、なかなか6割の壁を突破できずにいます。
インバウンドが増えて、海外旅行が少なくなれば、観光収支的には黒字化して、短期的には日本の外貨獲得にもつながってはいるのですが、中期的に見ると結構大きな危機感でもあります。
世界の異文化に触れる機会が減っているということでもあり、日本全体で言うと「日本のグローバル化が遅れる」「国際競争の中で置いていかれる」といったことも懸念されます。
一方、観光の分野においては、旅行に行って、魅力に触れて、今度は日本で旅行者を迎える側になりたい、と思って、観光業で活躍する人は少なくありません。海外旅行が少なくなると将来的な担い手不足にも繋がってきます。また、日本人が沢山海外に出ていくこと自体が、日本の認知獲得にも大きな貢献をしているのだと思っています。
海外旅行あってのインバウンドでもあり、観光業界的にも日本経済的にもこの数字が戻ってこないことの意味はもっと考える必要があります。
なんで日本人の海外旅行者数が戻ってこないかというと、複合的な理由があると思っていますが、経済面もやはり大きいのかな、と感じています。
なんで海外旅行が戻ってこないかの仮説
— 佐々木文人@株式会社羅針盤 (@sasakifumito) November 22, 2023
(経済面)
・円安で高すぎて手が届かない
・航空会社の供給量も減って費用が高騰
・国際的な購買力が落ちて、いい条件で仕入れられない
(心理面)
・「まだ海外旅行は怖い」「何かあったら・・・」が働く
・コロナ中にパスポートが切れて、取りに行くのも腰が重い https://t.co/vNcBZEE5aI
「国際的な購買力が落ちた」にもつながりますが、パッケージツアーを作りにくくなっているという意見も興味深い話でした。
海外旅行、おそらく来年も8割程度だろうなと思っています。
— タカ@ロコタビ代表 (@diskogs) November 22, 2023
理由を追加すると、コロナによって、日本人が利用できる旅行インフラがダメージ受けてパッケージツアーが作りにくくになっていることもあるだろうなと思います。
逆に個人旅行のマッチングであるロコタビは、すでに2019年を超えています。 https://t.co/8bEALCJhf0
日本のGDP(国内総生産)が今年ドイツに抜かれて4位に転落するというニュースも先月ありました。
自分が小さい頃はずっと2位だったのに2010年に中国に抜かれ、2023年にはドイツに抜かれ…
「まだ4位じゃん!」と思う面もありますが、GDPで忘れてはいけないのは国内「総」生産ということで、人口が多い国が当然ランキングも上位になります。
為替の換算等の関係もあるので、計算方法は各種ありますが、1990年代世界で10位以内だった日本は既に20位台に落ちてきています。
このままでは日本人が海外旅行に行けなくなる日もそう遠くないかもしれません。
生産性をあげること・ちゃんと稼ぐこと、それを働く人含め還元し、経済を回していくこと、ちゃんとやっていかねばな、と改めて感じた発表でした。
インバウンドは物凄い大きな可能性を秘めていると思うので、業界を引っ張っていける存在になれるよう精進します。
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(余談)
好きな言葉の一つに「幸せだから笑うのではなく、笑っているから幸せなのだ」というフランスの哲学者アランの幸福論という本の一節がありますが、「まず海外旅行に行きましょう!」
「お金があるから海外旅行に行けるのではなく、海外旅行に行くからお金が増えるのだ」ということは、あながち間違ってないんじゃないかと個人的には感じています。根拠ないですが。
そう言っている自分も海外旅行にコロナになってから行けてないので、時間をつくりたいです。
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