備忘録「観光立国推進基本計画(素案)」に対する意見

観光雑感

先月のことにはなりますが、観光庁が「「観光立国推進基本計画(素案)」に関する意見募集について」というパブリックコメントの募集を行っていました。締切は2023年2月23日なので1ヵ月以上前に締め切っています。

パブリックコメント、通称パブコメ、というと、損保ジャパン勤務時に耳にした程度で、行政にそんな手続きがあるんだなぁという程度に感じてました。
今回の意見募集では「お寄せいただいた御意見に対する個別の回答はいたしかねます」とのことで、「意見を聞いた」という事実を残す手続きの一環とは感じたものの、インバウンド業界の仲間から共有頂き、せっかくの機会なので自分の考えをまとめるいい機会かと思い、ざっと目を通して文字に落としてみることにしました。

後から見たら「若かったなぁ」と感じると思うのですが、自分への備忘録とこれをベースにどなたかと議論して進化できるのでは、と思って、文字に落とした内容を公開しようと思います。

素案を拝見しての感想 

※素案は長すぎ(70ページ!)ますがこちらより確認できます。
 時間がなく全部読み込めずに書いていることは単なる言い訳です。

様々な角度からの取組が盛り込まれていることに「コロナ前にまずは戻すんだ」という意思を感じることが出来ました。しかしながら、現状予算がついていること/見えていることへの延長線上の取組を羅列した感もありました。

  • 「観光立国推進基本法」の概要の中で、「国民経済の発展、国民生活の安定向上および国際相互理解の増進に寄与すること」とあり、とても大事なことだと感じています。一方、今回の計画の中で、「国際相互理解の増進」に関しての施策が前回の計画より後退した印象がありました
    • P5基本的な方針から落ちた
    • 唯一の数値目標であった海外旅行者数の数値目標もなくなった
  • 前回の計画に対し、人数は8割達成したが、消費額や地方部における宿泊数は6割にとどまったという現状がある中で、その原因に対して根本解決ではなく、対処療法的な処置にとどまっているような印象を受けました
    • 「消費拡大に繋がるコンテンツの充実」「魅力ある観光地の整備」等に課題があったとのこと、もちろんそれはその通りだと思いますが、グローバルキャンペーン等でコンテンツの整備はコロナ前も行っていたが、流通に乗らなかったという状況がありました。そこで、OTA等への掲載を推進する事業が行われましたが、根本の原因は流通に載せなかったことではなく、流通に載せるレベルまでコンテンツを設計・造成できていなかったことだと感じています
    • 上記の原因を粗い粒度で捉えたまま「消費拡大に効果の高いコンテンツの整備」という施策を掲げても、非効率なまま同じような数年を過ごすことになりかねません
  • 観光産業の革新・観光人材の育成について、物凄い大事で、ここが根幹になってくると考えています。しかし、計画に書かれていることはここ数年の取組としてすでに始まっている面もありますが、このままだと他業界と比べておいて行かれるのでは、、、という危機感を業界の中にいて感じています
    • DX推進にあたっても、推進されてないない理由を見極めずに、推進する人材を育成しようと言っても、他業界の劣化版にしかならない可能性も多いにあります
    • 人材の育成にかんして「地域の固有の文化、歴史等に関する知識の普及の促進」の中で子どもたちへの取組の促進が明記されていることは歓迎できますが、その他の部分で現状との大きな違いを感じるには至らず、業界として変化する印象も持てません
    • 京大では観光MBAのプログラムがはじまっているのはいい流れだと思いますが、観光庁が教育プログラムを提供することで観光地域づくりを「けん引」する人材育成が実現されるのかも疑問を覚えます

観光立国の実現に向けて

「コロナ前にまずは戻す」ということはもちろん大事ですが、観光立国化を進める上で、支える人や産業構造・環境というのは大事なうえに、一朝一夕では効果が出ないものでもあるので、次期観光立国推進基本計画あるいは、その次の段階であっても取組を検討して頂けると幸いです。

  • 観光人材の育成
    • 観光立国を目指すのであれば、文部科学省と調整の上、義務教育から観光教育を取り入れていってもらいたいと思います。また、高付加価値化・生産性の向上・収益力向上、観光地域づくりといった観点では、財務・マーケティング等のビジネス面でのカリキュラムを高等教育に取り入れていく等の取組も推進頂きたいです。トップの大学・トップの高校がそうした取り組みを進めていくことは、観光業界に興味を持つ優秀な人材が増えていくことにも繋がると感じています。
    • 「持続可能な観光を目指す」上でも、世界の水準を日本人が知っていることが物凄く大事だと思いますが、各地でセミナー等で受講生に聞いても、観光業界で働く人がそもそも海外にそこまで旅行していないと感じています。「アウトバウンドの促進」において触れられていますが、相互理解の促進という観点、今後の観光人材の育成という観点からも、外務省や経産省、文化庁とも連携しながら、数値目標を持って留学・ワーホリ・海外旅行の推進も検討いただきたいですし、そうした人材に観光業へのアプローチを行って頂きたいです
    • 短期的には、地域において語学面がボトルネックになって前に進まないケースも多く存在しています。地域おこし協力隊の人材等を2か月フィリピンに語学留学してもらい、語学を習得して地域に送り込む、等も地域のコンテンツ造成・消費拡大・受入体制整備において有効な施策かと思います。(一度身についた語学力は一生ものなので、日本国にとっても悪くない投資だと感じています)
  • 観光産業の活性化
    • DXの推進や優秀な人材の観光産業への就業を考える際に、「面白い業界」になることが大事で、そうしたイノベーションが起こる環境づくりにも国として取り組んでもらいたいです。現状の計画だと、予算を組んで、コンテンツ造成を進めていくのだと思いますが、勝手に、コンテンツ造成が進んでいく環境づくりこそが税金に頼らない「持続可能な観光」だと思います
    • 具体的には、旅行業法や道路運送法の見直し等により新しいサービスを誕生させやすくする、あるいは、そうした法律の相談窓口を設けることで、既存の法律の枠組みの中でも出来るサービスの相談に乗り、起業やサービスの創出を活性化させること等も考えられます。安全性の観点との両立も不可能ではないと思いますし、地方の観光振興、特にインバウンドにおいては二次交通の課題解決は必須・急務だと思います。
      (これはポジショントークにもなりますが、ボランティアガイドは車に乗って案内しても、無償だから有償旅客にあたらず、プロのガイドは有償旅客にあたってしまうという現状もあります。通訳案内士の試験にオプションとして道路交通法や実技の試験を付加し、運転してガイドできる等するだけでも、ガイドの活躍機会の拡大、地方の観光の活性化に繋がると思います)
    • 「海外の有望な観光関連企業の誘致」という項目がありますが、国内の消費額が増えても、利益が海外に流出してしまうのだとすると「国民経済の発展、国民生活の安定向上および国際相互理解の増進に寄与すること」という目的に照らした時に疑問も感じます。どちらかというと「日本発の国際的観光関連企業の創出」を支援いただきたいです。結果、それが国内旅行・インバウンド・アウトバウンドの底上げに繋がっていくものと思います

以上

【追記:2023/4/6】観光立国推進基本計画が公開されました

上記の素案がブラッシュアップされて、3月31日に観光立国推進基本計画が公開されました。
素案との比較はまだできておりませんが、参考までにリンクを張っておきます。

観光立国推進基本計画 | 観光政策・制度 | 観光庁

[2023.4.24追記:素案と対比しました]
色々面白かったです。この面白さ分かる人そんないないかもですが。

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